つれづれおきば。

筆名「わらび」の一次創作置き場。SSだったり短歌だったり。

【Twitter300字SS】桜、散華。

Twitter300字SS第31回お題「散る」 より。
https://twitter.com/Tw300ss/status/845606280697864192
本文はつづきより。




それは、いつもとは違う春。
雪解けと同時に最後の戦が始まった。

その日、彼は既に散り出した桜の下で、穏やかな表情で空を見上げていた。
愛刀を納めた朱塗りの鞘を愛しげに撫でて、彼は「ようやくだ」と笑った。
それ以上は何も言わず、ただ優しく笑う。

でも、わたしは知っていた。
戦って、戦って、戦い続けて、この最北の地まで流れてきた彼が何を求めてきたのか、わたしは知っていた。
だからこそ、わたしは笑って見送ることができない。

ああ、桜が散る。
まるで雪のように降り注いで、涙で滲むわたしの世界から彼を奪い去ろうとしている。

桜よ、さくら、花吹雪。
どうか彼を隠してしまわないで。
わたしはまだ。

彼が花を散らす様を見たくないのよ。


【300字(改行含まず)】


散りたい彼と見送るしかできないわたしの最後の春、その一場面。
敢えて説明はしませんが、分かる人には分かるネタです。
数年前から書きたいと思っていたお話でして、今回はそのお試し版みたいな作りにしてみました。
少しでも美しい描写になっているといいのですが……